精神科医療と心理学に関するあれやこれや

初老の精神科医が、精神科医療の現実や心理学的知見などについて徒然なるままに書き散らします

書評 スキーマ療法実践ガイド 金剛出版

今回の書評は下記を取り上げましょう

 

スキーマ療法実践ガイド スキーマモードアプローチ入門

アーノウド・アーンツ+ジャック・ヤコブ著

伊藤絵美監訳

金剛出版 

 

スキーマ療法とは、認知行動療法の流れを汲む心理療法であり、従来の認知行動療法を発展させつつ、そこにアタッチメント理論、力動的アプローチ、ゲシュタルト療法などの要素を組み込んだ統合的なアプローチであると紹介されている。

 

アーロン・ベックが編み出し、日本にも紹介されてきた認知行動療法は、今や医療保険の適応になるなど一過性のブームを越える勢いを示すようになり、その過程で適応とする病態も、不安障害、気分障害から発達障害や一部では統合失調症などの精神病性障害にまで広がりつつあると考えられます。しかしそれでも、複雑で重篤な病態を示すパーソナリティ障害や複雑型のPTSD解離性障害などには必ずしも有効とは言い切れない状況が続いてきました。

 

スキーマ療法並びにその発展的形態であるスキーマモードアプローチは、それらの複雑な病態への適応が期待できる、現時点では認知行動療法の最前線の治療法であると言って構わないような気がします。

 

本書は、「スキーマとは何か?」から始まり、「スキーマモード」の解説を経て「スキーマ療法」並びに「スキーマモードアプローチ」の各種の技法について詳しく解説されている成書であり、翻訳の見事さとも相まって非常に分かりやすく読みやすい一冊となっています。

 

本書を一読しておくと、実際の臨床で出会う「慢性化・難治化した精神疾患」の患者に対して新たな視点を得ることができ、理解と対応の幅を広げることができるように思います。